不順な恋の始め方

「ごめんなさい……やっぱり私は、坂口先輩とは別れられません。」


私は真っ直ぐに中塚さんを見つめてそう言い、深く頭を下げた。

頭を上げた私の視界に入った中塚さんの表情は、苛立っているような、でも、悲しそうな、とても複雑な表情をしていた。


「謝ればいいって問題じゃないんですよ。私、この間も言ったと思いますけど。坂口先輩は元カノ……」

「お取り込み中みたいやけど、ちょっと失礼するで」


「えっ、譲…」

「さ、坂口先輩」



中塚さんの話の途中、側の壁をトントンと扉をノックするかのように2回叩き、私達の会話へと入ってきたのは譲。

譲はまだオフィスにいるものだと思っていた私は大きく目を見開いた。


「ごめんなあ。ちょーっと中塚さんに言いたいことあんねん。ええか?」


〝ええか?〟なんて聞きつつ、譲は中塚さんに首を横に振らせるつもりなんてさらさら無いだろう。

首を縦に振るしかなくなるような、そんな表情をしている。

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