不順な恋の始め方
さっき、中塚さんに言っていた譲の言葉。それから、真剣な表情。
全部、全部、本当に嬉しくて、幸せで、泣きそうだった。
こんなに幸せでいいのかと思った。
「……はは、そういうのは反則やろ。なあ? 柚希さん」
「へっ」
「目え、閉じて」
「え?」
「ええから。閉じて」
譲に言われたとおり、瞼を閉じた。
譲が近づいてくる気配がして、何となくこの先が予測できた私は自然と肩に力が入る。
私と譲の唇が重なるのは、今か今かとドキドキしているのに、一向に重なることのない唇。
「ゆ、ずる…?」
ゆっくり、ゆっくりと瞼を開くと、すぐ目の前には譲の整った顔。
譲は驚く私の表情に、ニヤリと笑うと「キスするかと思うたやろ?」と言って顔を一旦離し、黒縁のメガネを外した
その仕草にさえドキドキとしてしまう私は必死に首だけを横に振って否定してみせる。