不順な恋の始め方
確かに、彼の言うとおり逃げることも出来たし、知らん振りすることだって簡単やった。
何故なら、彼女……森下さんは自ら『妊娠しました』なんて言う女の子やないから。況してや『責任とってください』なんて言えるわけがないから。
でも
「ちょっとラッキー……というか、良かったかなって思うてんねん。まあ、そんなん思うてるん俺だけやねんけど」
「はあ? 最初俺の横で『どないしよう』『俺ほんまに最低な男や』とか、ずっとうじうじしてたくせに何を急に……」
「はは、せやな。でも、元々タイプやったし、ちょっと狙ってたからなあ。」
「いや、だからってさ。流石に責任とって結婚は荷が重いって。好きな女でも大変だってのに」
そう言う目の前の彼は、俺と同じ29歳にしてバツがひとつ付いているバツイチ男。
そんな彼の言う言葉は確かに説得力があるが、それでも俺には森下さんとならうまくやっていける自信があった。
「俺の方は問題ないんやけど、彼女が俺のこと好きになってくれるかが心配やなぁ」
きっと、森下さんを好きになる。
根拠なんてないけれど、何故か今の俺はそう確信していた。