不順な恋の始め方
「お前……どうかしてるわ」
「だから、至って普通やって」
「お前が普通なら俺たちは最早人ではないな」
「なんや、ほなミジンコか?」
しょうもない言い合いを続け、2時間程居酒屋に滞在していた俺たちはそれぞれ家路を歩き出した。
友人は「お前可哀想だな」とか「運が悪かったな」と何度か言ったが、俺は全くそうは思わなかった。寧ろ逆だとさえ思っていた。
同じオフィス内にいたけれど関わりは全くと言っていい程無かった森下さん。
しかし唯一、一度だけ森下さんが廊下にばら撒いてしまった資料を拾った事があって。その後森下さんは凄く申し訳なさそうにペコペコと頭を下げていたのが印象的だった。
そこまでで終わりなら、きっとその印象止まりだったのかもしれないけれど。その日の営業帰り、俺のデスクの上には自販機で買ったのであろうミルクティーがひとつ置いてあった。
本人に確認したわけではないけれど、俺は、それを置いたのは森下さんだと分かっていた。
そこから、俺は何故か森下さんから目を離せなくなっていたというか、何というか。