不順な恋の始め方
「なっ…そ、そういう冗談は」
「いやいや自分、営業の男に結構人気あんで? あ、ちなみに俺も含めてやけど」
ニコニコと笑っている坂口先輩の言葉は、本当か、嘘か。そんなものどちらかは分からないが、恐らく後者。
嬉しくないと言えば嘘にはなるものの、3年も彼氏のいない私だ。こんな言葉にまんまと騙される程簡単な女ではない……ハズ、なのに。
「こんなん言うのアレやねんけど……あの日森下さんを送って、あんな風に勢いでしてもうたのは一瞬後悔してんけど、同時にラッキーやったって思うてんねん。今は」
「……え……?」
坂口先輩の今の言葉を、何度となくリピートしてみる。
何度リピートしたって、やっぱりおかしくて。理解なんてできなくて。でも、何故か嬉しくて。
ただ
「どう考えたってラッキー……では、ないと思うんですけど……」
この状況に〝ラッキー〟という言葉を当てはめるのは如何なものか。
きっと……いや、絶対に、違うと思う。