不順な恋の始め方
───ドクン、ドクン
「あ、の…やっぱり、やめませんか? 私に同棲は、まだハードルが高いというか何というか……」
車が出発してから数分が経ったというのに未だ緊張が解けないでいた私は、運転中の坂口先輩にそう投げかけてみる
まあ、でも、そんなものに坂口先輩が同意してくれるわけもないし、こっちもダメ元で言ってはいるのだが。
「はは、ほんまに?ほな、やめとく? まあ、もう着いてしもてるけど」
「な、え……っ…こ、ここ…ですか?」
坂口先輩の言葉を聞いて、私は勢いよく窓へと視線を向ける。
窓の外に立ち聳えているのは……私の住んでいたマンションとは、見栄えも、高さも、全てが違う綺麗で高そうなマンションだった。
私の住んでいたマンションといえば築何十年で、虫が出るのは日常茶飯事。おまけに蜘蛛の巣がそこら中に張っているようなオンボロマンションだったけれど……
それとは比べ物にならないくらいの、高級そうなマンション。
一般人にはとてもじゃないけれど手が届かなさそうな、白く、キラキラしたマンションだ。
こんなマンションに住んでいるなんてまさか、坂口先輩………
「あの……」
「ん?」
「まさか、坂口先輩って……あの、お坊ちゃんですか……?」