不順な恋の始め方
「出産した後も森下さんが続けたい言うなら続けてええし、とにかく森下さんの意思を最優先するから」
……あぁ、私は本当にこの人の子供を身ごもっているんだ。そして、更には一緒に育てていくんだ。と、今更ながらに湧いてくる実感。
正直、逃げようと思えば逃げれたはず。それなのに、自ら飛び込んできて。
どうしてこんなに良い人なのか不思議に思う程だけれど、でも、やはりその優しさに助けられているのは事実で。
「…あ、もし辞めるとしたら、そん時はちゃんと公表しよか。結婚すること」
「へ? え、っと…会社に、ですか?」
「え? うん、せや、会社に……やけど、もしかして嫌?」
「あ、いえ、そういうわけでは」
そういうわけでは、全くなくて。
ただ、会社に公表するということは、坂口先輩が私を選んだという認識を皆がするようになる。
「わ、私なんかがパートナーだと公表しても恥ずかしくない、ですか…?」
坂口先輩はこの先、きっとあの会社に勤め続けるだろう。でも、そんな認識の中でやって行くのは苦痛では……?