不順な恋の始め方
坂口 譲 side
* * *
「今日の夕ご飯、何がええ?」
じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、レタス、ほうれん草。
買い物かごを乗せたカートを押しながら、それらを順に見ていく俺と森下さんは夕ご飯の買い出しにスーパーへと来ていた。
俺のひとことが聞こえていたのか、聞こえていなかったのか。それは分からないけれど、隣の森下さんは何やらつまらなそうな顔をしている
「どうしたん? お買い物嫌やった?」
「え!? そ、そんな事は…!」
「ほな、なんでそんな顔してんのー」
ご機嫌斜めなん?お嬢さん
と、からかうようにして森下さんの顔を覗き込む。すると彼女は顔をリンゴのように赤くして俯かせた。そしてゆっくりと、小さく口を開く
「違うんです。そういう訳じゃなくて、私が言いたかったなぁって思って……」
「ん? 何を?」
「その、夕ご飯何がいい? とか……そういう彼女らしい台詞を……
だって、普通は女の子が言うもんですよね。でも、私が料理できないから……」
もごもご、もごもご、と口を動かして呟く彼女はまるで拗ねた子供の様。
でも、そんな姿でさえ俺には愛らしく感じる。可愛ええなぁ、と心底思ってしまった。