不順な恋の始め方
「なーんて、冗談冗談! 早う今日の夕飯決めて材料買って帰ろか」
「え、えっ、坂口先輩…!」
自分の感情を振り切るように笑い、カートをぐんぐんと押す。
すると、後ろから慌てて森下さんが俺を追いかけてきた。
隣を歩く森下さんはもう普段の森下さんで、目が合うと照れながら笑った。
「森下さん、どないする? 夕飯」
「え、ええっと……」
「食べたいもん言うてええで?」
「うーん……えっと……あの、和食、がいいです!」
「随分アバウトやなあ」
ははは、と笑い合って、また夕飯を何にするかを具体的に2人で話し合う。
きっと、周りから見れば普通のカップルで、下手すれば夫婦に見えるんやろなあとも思う。
実際のところは、未だ恋愛すら成立してない名だけの〝婚約者〟やねんけど。
いつか……いや、この赤ちゃんが生まれる頃には、周りから見える俺と森下さん。それから、ほんまのところの俺と森下さんの関係が、ちゃんと一致してればええなあ。と、そう思ったーー。