不順な恋の始め方
キッチンへと向かっていく坂口先輩の背中に、私は「ごめんなさい」と小さく呟く。
そして、大人しくリビングのソファーへと腰掛けた。
「はぁ」
同棲生活1日目の朝。
これは良いスタートを切りたいと、頑張って早起きをしてキッチンに立った私。
フレンチトーストのレシピが表示されたスマートフォンを片手に、フレンチトーストを作っていたのだが……何故だか出来上がったのは黒い物体で。
そのうち焦げた匂いに反応したのか、敷き布団から起き上がってきた坂口先輩には、少し叱られてしまった。
今思えば、普段全くと言っていいほど料理をしない私がキッチンに立ったのは間違いだったと思う。
それに、昨日の時点で坂口先輩には「料理は俺担当な?」と言われていたというのに……あぁ、やらかした。やってしまった。
ソファーの上で体育座りをし、その足に顔をぐっとうつ伏せて隠す。
目を閉じても、音だけでちゃんと分かる。そんな坂口先輩の料理の手際の良さに私は泣いてしまいそうだ。