不順な恋の始め方
「あ、自分も名前で呼んでほしかった?」
「そ、そういうわけじゃ…!」
「気持ちええくらい分かりやすいなぁ、ほんま」
ケラケラと笑う坂口先輩に悔しくなり、ほんの少し私はムキになった。
「だから、違いますって!もう」
「ほら、そない怒らんといてえな柚希」
あまりにもナチュラルに、違和感なく、坂口先輩の口から出てきた私の名前
想像していた以上に胸が跳ねる。それは、何も声が出ない程に。
ついさっき、ムキになっていたことなんて最早頭にない。
何も言わず、ただ口と目を開いている私。そんな私を坂口先輩は心配そうな表情で覗き込んでくる
「え、どないしたん」
「大丈夫か?」
「おーい」
ドクン、ドクン───
名前を呼ばれたのに加え、目の前で手のひらをブンブンと振りながら顔を近づけてくるこの人は私を殺す気なのだろうか。
更に跳ねる心臓は、痛いくらいにドキドキし続けているではないか。