不順な恋の始め方

「……し、死んじゃうかと思った」

「え?」

「坂口先輩、心臓に悪すぎます。もう、ドキドキしすぎて心臓が……」


心臓が、自分自身追いつかないほどに速く動いていた。

しばらくこんな風にドキドキなんてしていなかった私の心臓には余計に負担がかかったのだろう。


「はい、そない可愛ええ事言うたって何もでえへんで? しかも、もう既に坂口先輩呼びに敬語まで使うてるやん」

「あ、すいませ……じゃなくて、えっと、ごめん……?」

「はは、なんで疑問系? まぁ、柚希にしては上出来やな」


また、あまりにもナチュラルに飛び出してきた〝柚希〟という単語に私はピクリと反応する

私にはどうしても難しい、呼び捨てとタメ語。

それを坂口先輩……じゃなくて、譲さんはいとも簡単にやってのけたのだ。



「ほーら、柚希、あとは名前や」

「い、今から……ですか?」

「せや、今から慣らさな」


敬語はともかく名前くらい下で呼んでもらわんとな? と笑う彼はただ面白がっているようにしか見えないけれど。

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