不順な恋の始め方
でも、同時に私なんかで良いのかと強く思ってしまう。とても胸が痛い。
「……そう、ですね」
「頑張ろな、柚希」
ほな、俺あっちに用あるから。と言った譲はオフィスではなく会議室のある方へと足を進めていく。
そんな譲の背中を見つめて、私は小さな溜息をひとつ。
この溜息の正体は、なんとか誰にもバレず会社内へとやって来れた安堵からか、それとも他の何かか。自分の事だというのに全く分からない。
考えたって仕方のないことだと分かっていた私は、そのままオフィスへと足を進めた。
「お、森下。おは」
「あ、大橋。おはよう」
オフィスへと入ると、まず先に私を見つけた大橋が挨拶をしてくれた。
続いて私へと視線をやり手を振ってくるのは、菅ちゃん。
いつもと変わらないこの日常に、私はほんの少し安心して。それから、心が癒されたような気がする。