罪づけ




苗字じゃない、ということは。

今まで1度も口にしたことのなかった、下の名前だということで。



それは、私たち同期の関係が崩れてしまうことを意味していた。簡単に、大切にしてきたものが壊れるとわかった。



それでも、もう、なんだっていい。

私はもう女としての一生の幸せを望まないし、理性的に生きることもやめる。ただ一時、甘い瞬間を手にすることができればいい。

できることなら、信頼できる彼と。



「────透吾」



まっすぐで、私と違って心が汚れていない前野。人付き合いの上手な前野。

なににも染まらず、なにかを無理に染めることもない透明な────とても、とても優しい彼らしい名前。



嬉しそうに、泣きそうに、顔をくしゃくしゃに歪める。今までになく近い距離で、見たことのない表情。

それはどこか子どものように見えるのに、瞳の奥の色に戸惑った。



触れるだけの優しいキス。

あちこちに唇を押し当てながら、噛み締めるように彼が私の名を口にする。



何度も呼んで、呼んで、ためらいを押しこめて体に触れる。



「なぁ、……愛」



そう呼びかけて、唇の上で透吾が囁いた言葉に、私は目を見開いた。

そして、気づく。



今までに彼に対して犯してきた罪。
これから始まる罪。



どちらも透吾を傷つけることだったのだと気づいて、でももう後戻りはできなくて。

彼の気持ちを考えて、胸が震えるほど痛んだ。



そして私は今日初めてぽとりと、涙を落とした。








































「俺は、愛が好きだよ」






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