罪づけ
「なんでもないのよ。ただ、幸せな結婚生活なんだろうなぁって」
「ああ、はい。幸せです!」
「そう……」
それは、いいことだ。
想い、想われる。愛する人を大切にできている人は、魅力的だもの。
「愛さんはね、うちの奥さんに似てるんですよー」
「そう、なの?」
「はい。無理しがちで、助けてもらうのが苦手で。でも、いつだって頑張ってるんです」
確かに似ているところもあるかもしれない。
だけど私はきっと、そんなに素敵な人ではない。
仕事は好き。きちんとやることは気持ちがいい。
経理の仕事は私と相性がいいと思うし、やりがいだって感じてる。
新人教育は苦手だけど、教えたことを身につけていく姿はよかったなと思う。
だけど、違った。昔の私は家庭に入ることをなにより望んでいた。
それが〝私〟だったことを私は忘れてはいない。
失われたあの日、そばにいてくれた透吾。彼に対して私が今抱いている感情は────、
「愛さんは、結婚はしないんですか?」
「っ……」
私に向けられることは早々ない話題。
岡村くんだから、できること。みんな私に色恋沙汰なんて無縁だと思っているもの。
「結婚もなにも、そんな相手いないから」
いらない、から。
苦笑しながら拾い上げたままだった紙を整える。手元に集中する風を装って、岡村くんから顔をそらす。
意味なくピンクベージュのリップが塗られた唇を噛み締めた。
「そうなんですか。愛さんは誰かそういう相手がいてもおかしくないと思ったんですけどねー」
「そんなことないわよ」
「でも、美人だし。おれの奥さんと一緒でー!」
にーっと笑った彼に肩の力を抜く。