罪づけ
「そこも似ているところ?」
「そうですよー!」
そう。そっか。
岡村くんは本当に奥さんだけを愛しているのね……。
「残念ながら美人でもないし、相手もいないのよ。仕事の方がいいわ」
はい、と書類を手渡す。ありがとうございますと言いながらも不満げな岡村くん。
鞄にしまいながらそっと私と目を合わせた。
「おれのことを幸せそうって言ったけど、愛さんは今、幸せですか」
「────しあわ、せ?」
泣きそうに声が震える。
予想もしていなかった質問に指先まで力が抜けた。
生気のない揺れた声は、道しるべになるものも頼れるものもない。迷子の子どものよう。
「だって愛さん、なんだか苦しそうですよ」
ああ、もう、どうして私の周りには気の回る人がいるのかしら。
どうして、どうしてこんなに優しい人ばかり……っ。
ぐっと瞳を閉じて、開く。浅い呼吸を繰り返して、零れてしまいそうななにかを堪えて。
そして、それで、
「幸せよ?」
笑った。
「充実した毎日を送っているわ。仕事終わりのお酒、美味しいし」
ふふっと小さく笑った私に「そうですか」と彼は眉を下げて笑った。
「愛さん、お酒好きですよね」
「ええ。甘いのしか飲めないけれど。至福の瞬間よね」
「じゃあまた今度飲みに行きましょう」
「楽しみにしてるわ」
当たり障りのない。楽しいことしかない先の話。
ひとしきり話したあとで、結構時間が過ぎていたことに気づく。
「岡村くん、まだ仕事残ってるのよね? 引き止めちゃったわね。ごめんなさい」
「いえいえ、大丈夫ですよー! 一緒に拾ってくれてありがとうございました」
「それじゃあ、頑張って」
お疲れ様です、笑ってエレベーターに乗りこむ岡村くんを見送った。