罪づけ
いつもは長い黒髪をクリップでまとめていて、つり目はきつい印象を与えやすい。
そんな私・沼田 愛(ぬまた あい)と前野 透吾の関係は、新入社員の研修の時からの────6年来の同期。
今じゃ総務にいる彼だけど、4年前までは私と同じ経理にいた。
異動する前もよく飲みに行っていたし、その後も回数が減りはしたけど変わらない関係。
気のおけない仕事仲間。
────だった、はずだった。
それなのに、今。
私は一生愛すると誓った奥さんがいる彼と、俗に言う不倫をしている。
なんておかしな話なんだろう。
透吾が結婚すると報告を受けた時、私は確かに大切な人の幸せを祝福していたし、彼をそういう目で見ていなかったから純粋に嬉しかった。
素敵だ、羨ましいなと思った。おめでとうとも。
そしてなにより、いつかは私も────と。
嘘じゃなかった。
……嘘じゃなかった。
はっと息を吐き出すように、嘲るように笑った。
甘ったるい考え。砂糖菓子より、花の蜜より、馬鹿らしい。
見た目の割に少女趣味だった昔の私らしい。
だけど吐き気がするような夢見がちな発想は、もう私の中には残っていない。
きらきら輝くティアラ。真っ白なウェディングドレス。
たくさんの人に祝福されながら真っ赤なバージンロードを父さんと歩いて、誰より愛おしい人の元へ。
そんな結婚に憧れていた自分が別の誰かみたい。
恥ずかしい恥ずかしい。くだらない。
そんな風になってしまうのは、結婚なんてしたくないと思っているから。
愛という名の私は、誰より愛を信じていないから。
私が変わってしまったのは、2年前。
透吾との関係が変わり、大切なものを失ったあの日のことが原因だった。