罪づけ
「じゃあ、おれここで失礼しますね。愛さんと飲みに行く約束、近日中に果たしましょう!」
慌てて頷けば、ぺこりと頭を下げて岡村くんがエレベーターを降りた。
ちょうど死角になったままだったらしく、繋がれたままの手に対してなにも言われなかった。
思わずほっと息を吐き出すも、私たちの間に言葉はない。
まだ胸が高鳴っているのもあるけど、なにより透吾の様子が少しいつもと違うのを感じたから。
思えば、おかしい。
いつもだったら透吾はこんな危険なことをしない。
自分のためというのももちろんある。むしろそうじゃなかったら困る。
だけど彼がなんのために隠し通そうとしているのか。
私と、奥さんのため。
優しい彼は、私たちふたりを守ろうとしているの。
だから2年間、こんなことは1度もなかった。
彼になにかあったのかしら。
なにがあって、こんなことをしているのかしら。
「透吾?」
そっと見上げながら呼びかける。指先に力を入れて、わずかに引いた。
すると引き戻すかのように強く奪われる手の自由。
「……今日」
「え?」
「今日の夜、会える?」
珍しい。金曜日以外はできるだけまっすぐ家に帰る彼がただの平日にこんな誘いをするなんて。
「えっと……うん。大丈夫よ」
なんだか怖くて、平気だと返すことを迷う。
忙しいのは忙しい。でも、頑張ればなんとかなるのも事実。
今日、私たちの間になにかあるのだとしても、私は可能な限り彼のそばにいたいの。
「じゃああとで連絡する」
「わかった」
繋がれていた手が離される。そのままゆるりと上がり、私の頭をぽんぽんと叩くように撫でた。
そのまま降りて行った彼の表情は、私には見えなかった。