罪づけ
「こんな酔ってる沼田初めて見たんだけど」
そりゃそうよ。だっていつもならセーブして、悪酔いしない程度に楽しんでいるもの。
私の手の届かないところにコト、とグラスを置かれる。ちらりと目をやれば更に距離を取られた。
取り返すことを泣く泣く諦める。人のいないバーの隅で、カウンターのテーブルに頬をつけながら前野を見上げた。
「……お前、なんかあったの?」
なにか。……なにか?
ああ、うん。あった。とても、とても悲しいこと。
忘れたくて、お酒を流しこんで、いつもより笑ってはしゃいで声をあげて。それでも……忘れられなくて。
どうしようもないこと。終わってしまったこと。
「あのね、あのね私ね、高坂(こうさか)さんとお別れしたの」
そう言えば、前野は目を見開いた。
高坂さんとは、2年間付き合っていた同じ部署の4つ上の先輩。高坂 正人(こうさか まさと)さんのこと。
私は入社してから1年後、彼に告白した。
当時、同じ部署にいた前野も先輩のことはよく知っている。
ノリがよくて、仕事はそれなりで。適当に生きている彼。
でも私は、力を抜くことが苦手で、変に真面目だったから。自分にはすごく難しいことをやってのける先輩に憧れていた。
私が呼吸しやすいようにしてくれたのも、浮きがちだった私をみんなの輪に入れてくれたのも、彼。
とても、好きだった。
────たとえ、付き合うことを秘密にするよう言われていても。
前野が私たちの関係を知っていたのは、彼が自分で気づいたから。
周りに目を向けることができる彼だから、私のささいな変化に気づいたの。