罪づけ
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私の家の最寄り駅から少し歩いたところにある、さびれたように見える小さな喫茶店。中は古くとも、大事に使われてきたことがわかる家具や小物による独特の雰囲気がある。
ただのコーヒーだけじゃなくて、ふわふわで優しい苦味のコーヒーシフォンも美味しい。
透吾とも何度も来た、そんな穴場の店での待ち合わせ。
もうすぐ着く、という透吾からのLINEを確認してしばらく。私はぼーっと気を緩めつつ、彼が来るのを待っている。
本気を出して、なんとか帰ることができるところまで一通り終わらせた仕事。
でも本格的に決算期が近くなってきているから、また仕事も頑張らないといけない。
こんな風にいつも通りの定時に帰るのは今日だけ、特別ってことにしておかなくちゃ。
今日は必死で片づけたから、いつもの倍は疲れた。それでもなんとか終わってよかったと思いつつ、通い慣れた店で人心地ついてしまったせいで透吾と会うのが少し怖くなってきた。
なんでこんな急なお誘いだったのかしら……。
今日はイレギュラーなことばかりで、どうしたって挙動不審になってしまう。
なんだか憂鬱、とため息を吐きながらコーヒーカップをソーサーに戻した。
客は私しかいない店内にやけに大きく響いて、肩が揺れた。
なにびくびくしているんだか。
その時、コンコン、と外から叩かれる窓。そこには笑ってひらひらと手を振る透吾の姿。
彼は店でゆっくりする気はないらしい。
出て来いってことよね。
コーヒーを飲み干して立ち上がる。
「ご馳走様」
勘定を済まして、外で待つ透吾に軽く駆け寄った。