罪づけ
「お待たせ」
「大丈夫、そんなに待ってないわ。お疲れ様」
ありがとう、と笑った透吾。
その表情は特に違和感ない。というか、いつも通りじゃないかしら?
さっき会った時の彼は気のせいだったのかと思いつつ、ほっとする。
頬を緩ませたら、簡単に私の掌がすくわれる。
「え?」
そのまま歩き出した透吾に連れられて、思わず足を踏み出す。
会社でなく、私の家の最寄り駅だとはいえ、いくらなんでも不用心すぎる。
私たちの関係は褒められたものじゃないのに、こんな堂々と。手を絡めて。
……恋人みたいに。
「と、透吾!」
「なに?」
「あの、手、どうかと思うの」
本当は嬉しい。とても、とても幸せ。
だけど自分が考えついてしまった言葉に、このままじゃ浮かれてしまいそうで。
そんな思い上がり、許されないからなんとか戒めなくちゃ。
そう思って声をかけたと言うのに。
「繋ぎたい」
「っ、」
そんなことを言われてしまったら、私はもう、どうしようもない。
彼の言葉に心までとろとろに溶かされて、建前が消える。繋いでいたいという本音が溢れる。
「こんな危なっかしいこと、してはいけないのよ」
「うん」
「見られたらどうするつもり?」
「大丈夫」
「馬鹿ね」
「そうだよ」
好きよ。
……それだけは、どうしてか、口にすることはできなかった。