罪づけ
目の前に転がった缶の数。
飲んだ量は高坂さんにふられて……透吾に抱かれた時と同じくらい。もしかしたらそれ以上かもしれない。
あの日から、いく度となく彼はここを訪れた。
何度もここで同じ時を。少しずつ、過ごし方が変わっていったあの日々。
お客様対応で、別だったお風呂上がりのタオルが同じものになった。
グラスが倒れてお酒がこぼれた時、すぐに台拭きを取れるくらい馴染んだ。
リモコンの置き場も、ティッシュの片づける所も、枕元のクリップの定位置も、濡れた雨具の干し方も、お気に入りの洗剤も、ひとつひとつ覚えていって。
小さな習慣が、入り混じって普通になっていくことが嬉しかった。幸せだった。
でも、もうそれだけじゃいられない時がきたの。
彼のせいじゃなく、呷ったお酒のせいで濡れた唇を噛み締める。
甘いはずなのに、苦く感じるそれに眉を寄せながら、スマホに手を伸ばす。
見慣れた緑色をしたアプリ……LINEのアイコンをタップした。
しばしの起動時間の後、スクロールして目当ての人とのトーク画面を開く。
『来週の金曜日、仕事終わり』
たったそれだけの短いメッセージを送る。
そしてまた、買いこんでおいたお酒をただ流しこんでいく。
すりおろしりんごのチューハイ、アイスティーサワー、カシスオレンジ。
虚しいほど酔うことはできず、やるせない気持ちになった。
できるだけ、いつも通りに。彼との時間を過ごすことができますように。
私の今の願いはただ、それだけ。