罪づけ
パタン、と音を立てて、脱いだパンプスが靴箱の前に落ちる。
酔いのせいか、足元がふらついた私を透吾が支えてくれた。
意図せず近づくふたりの距離。
一日仕事を頑張った証の汗と、なんとも形容しがたい彼特有の優しい香りが鼻をかすめた。
慣れていたはずだった。これ以上に近くにいた。
もっと、深く、……もっと。
だけど、今。支えてもらっただけでやけに大きく心臓の鼓動が聞こえてきて。
子どもみたいに胸が騒いだ。
……透吾が好きだと。
「大丈夫?」
眉を下げて声をかけてくれた透吾の息が耳にかかった。
「っ、」
平気よと頷いて、だけどこの温度を手放したくなくて。
腕を引く。抵抗することなくつき従ってくれるのをいいことに、中へと足を進めて辿り着いたのは……寝室。
そこでようやく私の手と彼を泣く泣く引き剥がして、ベッドに腰かけた。
初めて彼がこの部屋に来た時、中に入りこんだのはふたりの意思だった。だけど今日は少し違う。
逃げない。嫌がらない。それでも透吾が望んでいるわけではない。
だからこそ、私は気づいてしまった。
優しい、透吾。彼は、私を大切に想ってくれる彼は、私が望んだら部屋まで来てしまう。
嫌だと言えば、私と話をするために会いに来た彼は話をしようともしない。触れ合いたいと言えば、結局前と変わらず近くにいられる。
お願い、どうしても。
そんな言葉を綴れば、きっとこの関係はまだ終わらないの。
終わらせられるのは、私だけなの。