罪づけ




パタン、と音を立てて、脱いだパンプスが靴箱の前に落ちる。

酔いのせいか、足元がふらついた私を透吾が支えてくれた。



意図せず近づくふたりの距離。

一日仕事を頑張った証の汗と、なんとも形容しがたい彼特有の優しい香りが鼻をかすめた。



慣れていたはずだった。これ以上に近くにいた。

もっと、深く、……もっと。



だけど、今。支えてもらっただけでやけに大きく心臓の鼓動が聞こえてきて。



子どもみたいに胸が騒いだ。

……透吾が好きだと。



「大丈夫?」



眉を下げて声をかけてくれた透吾の息が耳にかかった。



「っ、」



平気よと頷いて、だけどこの温度を手放したくなくて。

腕を引く。抵抗することなくつき従ってくれるのをいいことに、中へと足を進めて辿り着いたのは……寝室。



そこでようやく私の手と彼を泣く泣く引き剥がして、ベッドに腰かけた。



初めて彼がこの部屋に来た時、中に入りこんだのはふたりの意思だった。だけど今日は少し違う。

逃げない。嫌がらない。それでも透吾が望んでいるわけではない。



だからこそ、私は気づいてしまった。



優しい、透吾。彼は、私を大切に想ってくれる彼は、私が望んだら部屋まで来てしまう。

嫌だと言えば、私と話をするために会いに来た彼は話をしようともしない。触れ合いたいと言えば、結局前と変わらず近くにいられる。



お願い、どうしても。

そんな言葉を綴れば、きっとこの関係はまだ終わらないの。



終わらせられるのは、私だけなの。






< 49 / 62 >

この作品をシェア

pagetop