罪づけ
「別れたって、なんで……」
「ふふ、それがね、おかしいのよ。子どもができたんだって言うの」
「っ、」
もちろん母親は私じゃない。
彼は私の知らないところで浮気をしていたらしい。
相手は一般事務の松本 美緒(まつもと みお)ちゃん。経理の補助によく入ってくれる彼女には私もお世話になったことがある。
清純そうなふわふわとした乙女な彼女のことを、好ましく思っていた。
でも、それもきっと一方通行な想いだった。
高坂さんを好いていて、深い関係になっていた彼女はきっと、私と彼のことを知っていて。……大嫌いだったに違いない。
「私、表情が薄いの。気持ちがわかりにくいし、表現も上手くできない」
「沼田……?」
「協調性ないし、頭は硬いし、自分にも他人にも厳しくてとっつきにくいの」
「……」
「自分でわかってた。高坂さんも、わかってくれていると思ってた」
なんて傲慢で浅はかなこと。
そんなわけないのに。女のくせに可愛げのない私なんて、お嫁さんになんてしたいと思うわけがないのに。
私だって、自分が男だったら、美緒ちゃんの方がいいに決まってる。
可愛くて、素直で、甘え上手で、守ってあげたくなるような。そんな、女の子の方が。
だけど、
『付き合うことを秘密にしようと言ったこと、後悔していたよ』
『どうして……』
『愛が完璧だったから。ただの部下である沼田を演じきっていたから』
『だって、だってそんなの、』
『理性と感情は別だった。おれはお前と恋をしている感覚がなくなっていった』
『っ、』
『ほら、こんな時でさえ、愛は泣かないだろう?』