罪づけ
「ずっと甘えていてごめんなさい」
そう言って透吾の頬に触れる。涙を親指で拭えば、切なそうに彼が目を細めて、隙間からまた涙が転がり落ちてくる。
────今日は、肩は揺れない。
「ずっと甘えさせてくれてありがとう」
抵抗なく頬を預ける透吾の瞳がゆっくりと瞬きをする。その姿が歪んで、私の顔が歪んで、彼と同じように濡れていく。
泣きたくなどなかったのに。
高坂さんとの別れでは泣かなかったのに。泣かずに終えられたのに。
その差はなにかと言われればわからないけれど、きっと、透吾が泣いてくれるから。ただの不倫相手としてじゃなく、愛した女として悲しんでくれるから。
情けないところをたくさん見せ合った私たちの時間があまりにも愛おしいから。
この部屋で食べたナポリタン。たまに一緒に料理をして、透吾おすすめのお酒を口にして。
ソファに腰かけて映画を見たり、シャワーの間にふわふわだと喜んだことのあるタオルを用意して、冷たいお水を出して、濡れた髪を乾かしてあげて。
手を繋いだ、頬に触れた、口づけをした、愛を交わし合った。
赤く染まる耳が、熱を孕んだ瞳が、濡れた唇が、男らしい首筋が、滑らかな肩甲骨が、骨張った指が好きだった。
透吾の全てを愛していた。
ああ、────幸せだった。