罪づけ
それは、繋げる愛情。
ガタン、と音を立てて少し建てつけの悪い玄関の扉が閉まった。鍵をかけて、チェーンをかけて、その音を確認してから立ち去る透吾の足音。
私が玄関で見送る日はいつも気にしてくれていた。
こんな日でさえ私の戸締りを気にしてくれていた。
それがとても嬉しかった。
耳に慣れて、足音だけで彼だとわかっていた日々はもう訪れることはない。
透吾がここに来ることは、……ない。
返された合鍵を手の中で弄びながら、部屋に戻る。
奥さんに見られたら心配されるからとまぶたに当てていた小さなタオル。冷たいものと、温かいもの。
テーブルの上に置きっ放しだったそれを回収して、キッチンに立つ。
コーヒーでも飲もうとペーパーフィルターを出した。お湯を火にかけて、久しぶりにハンドドリップで入れようかしら。
『愛、俺の分も入れて』
そう、透吾が今ここにいたなら言ったに違いない。
だけどもう彼にコーヒーを入れることはない。料理を出すこともない。
この部屋に来ないのだから当然で、どうしようもない。
さみしいけれど、……大丈夫。
大丈夫になりたいという気持ちがあるから。
私たちの不倫は────恋は終わりを迎えた。
互いに哀しみながらもちゃんと納得した別れだった。
汚れていた恋だった。だけど、とても綺麗だとも思った。
私が透吾を想う心も、透吾が私を想う心も。どちらも間違っていたけれど、自分に嘘を吐かなかったから。
だから2年間に想いを馳せても、切なくはあるけれど、悲しくはない。