罪づけ
あの時泣けば、よかったのかしら。
嫌だと、好きだと、子どものいるあの子よりも私を選んで欲しいとすがりつけばよかったのかしら。
でもそれは────私にはできない。
赤ちゃんがいるのに、私の方に戻ってくることを望むなんてできなかった。そんな嫌な女になりたくなかった。
だけどなにより、そんな風に命を見捨てられる高坂さんじゃないことを知っていたから。
だからせめて、綺麗に終わりたかった。
恋人として最後に接する高坂さんに情けないところなんて、見せたくなかった。
少しでも自分のいいところを見せたかった。
思い出に刻めるように。
好きなのに泣かなかったの。
好きだから泣かなかったの。
涙は愛の象徴ではないと思っていたから。
でも、高坂さんは違ったみたい。
いつの間にか私たちの考えは、想いは、すれ違ってしまっていたのね。
それがとても悲しくて、苦しくて、私はまだ本当の意味で現実を受け入れられていないのだと思う。
彼の言うとおり、関係を隠して働くことは間違いだったの? 正しいことでは、なかったの?
私は、ふたりの未来のための選択をしたつもりでいた。
でも……違ったのね。
そのことに、私はようやく気づいた。
今まで積み上げてきたものが崩れる瞬間とは、なんて胸が痛むのかしら。
どうして、疲れきって逃げ出すことしかできなくなるのかしら。
絡めた視線の甘さも、きつく抱き締めあったぬくもりも、涙が出るほど求めた日々も。
全部、消えてしまった。
愛していたから、愛されたかった。
私はただそれだけだったのに。
なのになにもわからないから、わからないままで。全てを誤魔化してしまいたかった。
誤魔化す自分から、目をそらしたかった。