罪づけ
「私、前野が羨ましいのかもしれない」
うん、……うん。きっとそう。
こんな私のわがままに付き合ってくれて、仕事を頑張っていて、適当に見えて周りに気を遣う前野。
そんな彼を羨むなんて失礼にもほどがあるのに、私はどこかで彼を妬んでいる。
「だって前野は、愛してる人の1番でしょう?」
いいなぁ。
……いいなぁ。
「私だって、愛してる人の1番でありたかった」
大切にしたい。大切にされたい。
大切な人に「おかえりなさい」と。「お疲れ様」と言いたい。
ご飯を作って帰りを待って、子どもの世話をして。今も対して気遣ってはいないけど、見た目がどうでもよくなるくらい所帯染みたり。
そんな風になりたかった。
愛してる人と────高坂さんと、家庭を築きたかった。
「俺、だって……っ」
ガタン、と前野が立ち上がるのが、足しか見えない視界でもわかった。
そのまま私の手の中にない右手が私の背に回る。力がこめられて、ふたりの間に距離がなくなった。
「前野……?」
彼の手を離そうとした私の手を、逆に掴まれる。
逃げられないよう、少し痛いくらい。
「俺だって、1番好きなやつのそばにはいないよ」
震える声が耳に流しこまれる。
きゅうと胸が痛んで、肩が跳ねた。