罪づけ
「まえ、」
「お前の部屋、行っていい?」
泊まっていいかと尋ねる前野の表情は見えないまま。小さく首を縦に振る。
「……わかってる?」
「前野、私、子どもじゃないのよ」
自分で言ってきた癖に戸惑う透吾に、私は馬鹿にしたように眉を歪めて笑う。
お酒に酔った大人ふたり。
部屋には男と女だけ。
哀しい恋をして、苦しい想いを抱えていれば。
なにが起きるかくらい、わかる。わかっていて、私は頷いた。
それは間違いだと、道徳的に許されないとわかっていた。
でもそんなことどうだってよかった。最低だと誰かに罵られようと構わないと思った。
ただ、ぬくもりが。他の誰でもない、大切な前野だから、欲しかった。
素早くお代を払う前野に腕を引かれて店を出る。
ああ、そういえばあのお店にはもう行けないなぁ。こんな罪の始まりの場所にしてしまった気恥ずかしさと気まずさに息がとまりそう。
店主の顔を浮かべて、唇を噛み締める。
今日はひたすらお酒を流しこむつもりでいたから、私の住むマンションの最寄り駅で飲んでいた。
そのおかげと言うべきか、家までそんなに遠くない。
互いがフリーだった頃に、他の同期こみで1度宅飲みしただけなのに私の部屋を覚えていたらしい彼は迷いなく足を進めていく。
前野も、もちろん私も言いたいことがあるはずなのに、言葉の形をとることができない。
私のヒールと道路がぶつかり合う音、あがっていく呼吸。
それから電柱の明かりのジジッという音が大きく聞こえて、それなのに自分の心臓の音もやけにはっきり耳に届いていた。