ジキルとハイドな彼
プロローグ
走る走る走る
耳の奥が痛くなり、口の中に血の味が広がる。
それでも立ち止まる事は許されない。
彼との約束を守るために、アタッシュケースを抱えて走り続ける。
深夜の商店街。
店のシャッターは下がり、人の気配はない。
突き当りの角を曲がり、小道に駆け込む。
「向こうをさがせ!」
複数の足音が散り散りの方向に走り去って行くのが聞こえた。
何とか追手を巻いてやり過ごしたようだ。
路地から目的地へ向かおうと、元きた道を戻ろうとしたその時だった。
「信じられないな」
振り返ると薄気味悪い場所にはおよそ不釣り合いな美しい男が立っていだ。
驚きで私は目を見張る。
男は口元に手をあて肩を震わしながら、こちらにゆっくりと歩み寄ってくる。
「笑えるね、笑えるほど君は惨めだ」
その笑顔はゾクリとするほど冷たく、それでいて美しい。
慌てて身を離そうとしたが手首を掴まれる。
咄嗟にふりほどこうとしたが、びくともしない。
「あなた…あの人達の仲間だったの?」私は震える声で尋ねる。
「だとしたら?」男は片眉をあげて聞き返す。
「騙したのね」悔しさで血が出るほど唇をきつく噛みしめ、睨みつける。
答える代りに腕を握った手に力を込める。
「確保」
無表情のまま、美しい人は私に言い放った。
その恐ろしいまでに整った顔を呆然と眺めていると、占いで引き当てた死神のタロットカードがふと脳裏を過った。
耳の奥が痛くなり、口の中に血の味が広がる。
それでも立ち止まる事は許されない。
彼との約束を守るために、アタッシュケースを抱えて走り続ける。
深夜の商店街。
店のシャッターは下がり、人の気配はない。
突き当りの角を曲がり、小道に駆け込む。
「向こうをさがせ!」
複数の足音が散り散りの方向に走り去って行くのが聞こえた。
何とか追手を巻いてやり過ごしたようだ。
路地から目的地へ向かおうと、元きた道を戻ろうとしたその時だった。
「信じられないな」
振り返ると薄気味悪い場所にはおよそ不釣り合いな美しい男が立っていだ。
驚きで私は目を見張る。
男は口元に手をあて肩を震わしながら、こちらにゆっくりと歩み寄ってくる。
「笑えるね、笑えるほど君は惨めだ」
その笑顔はゾクリとするほど冷たく、それでいて美しい。
慌てて身を離そうとしたが手首を掴まれる。
咄嗟にふりほどこうとしたが、びくともしない。
「あなた…あの人達の仲間だったの?」私は震える声で尋ねる。
「だとしたら?」男は片眉をあげて聞き返す。
「騙したのね」悔しさで血が出るほど唇をきつく噛みしめ、睨みつける。
答える代りに腕を握った手に力を込める。
「確保」
無表情のまま、美しい人は私に言い放った。
その恐ろしいまでに整った顔を呆然と眺めていると、占いで引き当てた死神のタロットカードがふと脳裏を過った。
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