ジキルとハイドな彼
「一連の事件は組織絡みの犯罪って事。現段階では推測だけど」

「じゃあ、取引に失敗した聡はどうなっちゃうの?」

コウが焼き網に肉を並べると脂で火力が強まり勢いよく炎が上がる。

「さあね」とコウは興味なさそうに呟きビールを一口飲む。

もしかしたら、失態を犯した聡は組織から何らかの制裁を受けることになるかもしれない。

恐ろしい想像にぞくりと悪寒が走った。

聡の事を恋しく思う気持ちは既に消滅している。

しかし、一度は好きになった人なので酷い目にはやはりあって欲しくない。

理由は何にせよ犯罪に関わっていたのなら、警察に捕まり、法の下で裁かれきちんと罪を償ってほしい。

「また協力出来る事があれば、連絡してね」引き攣った表情でコウに言う。

「そうだね、あのマスターにはまだ聞く事がありそうだ」

「え…また行くの?」私は嫌そうな顔をする。

「そうだね、その時は宜しく頼むよ」と、コウはさらりと言ってのける。

しかしコウは細身の割によく食べる。

焼きあがった肉は瞬く間に消えてなくなっていく。

どんだけ燃費が悪いのよ。

飽きれながらその姿を眺めてプチトマトを齧る。

「とりあえず、ちゃんと録音出来ているかチェックしておこう」

コウはボイスレコーダーを取り出し再生ボタンを押す。

ハイテンションなやかましいマスターの声が聞こえてくる。

「マスター、コウをみたらやたらと興奮しちゃって」

ああ…とコウは相槌を打ち苦笑いを浮かべる。

一連の重要な会話は問題なく録音出来ているようだ。最後の部分に差し掛かり私はハッとする。
< 105 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop