ジキルとハイドな彼
「こ、こ、この辺でもういいんじゃない?ちゃんと撮れてるわよ」

慌てて再生を止めようとした私にコウは訝しい視線を向ける。

「最後まで確認しなきゃだめでしょ。そんな長い訳でもないんだから」

コウがレコーダーを取り上げる。

私は手を伸ばし取り返り返そうとするが、コウにヒョイっとかわされてしまう。

『あの子上品そうに見えるけど結構エロそうよね』

ダミ声のお姉口調がレコーダーから流れてくる。

ああ…もう手遅れだ…

『今日はこの後しけこむ気?』

『ああ、はい、まあ』

『いいわね~薫ちゃん!』

私は顔を上げる事が出来ずがっくし項垂れる。

「薫がそんなつもりとは知らなかった」

恨みがましい視線を向けると、コウはニッコリと悪魔の微笑みを湛えている。

レコーダーを取り合っていたせいで気づいた時には、コウと隣合わせに座っていた。

「で、しけこむの?」

コウが腰に手を回してきたので、ぎくりとする。

「い、いや、…」結構です、と言いかけた時、フンワリとコロンが香り、そっと頬にキスをされた。

驚いてコウの方に振り向くと、漆黒の瞳が私を捉える。

間近で見ても綺麗なひと…

その目に見つめられると催眠術に掛かったかのようにボンヤリする。

思わず「うん!うん!しけこむ!」と言ってしまいそうな衝動に駆られる。

その瞬間、けたたましく携帯の着用音がなった。

コウはさっと身を離す。

「はい、葛城です…いや、大丈夫だ」

私に目配せし、お詫びのつもりかちょっと頭を下げると、そのまま電話を掛けながらコウは個室の外に出て行った

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