ジキルとハイドな彼
「警察沙汰?!」

友里絵の声が辺りに響き渡る。

私は鼻の前に指を立ててシーっと諌めた。

物騒な単語に周囲の客から訝しい視線が向けられる。

「だって、急に驚くじゃない。金曜日に仕事で食事会に来れないって連絡とったばかりなのに、その後から警察に拘束されてたなんて」

先週の腐女子会が中止になった代わりに、一週間遅れの金曜日にいつもの三人で集まり夕飯を食べる。

本日は寒くなってきたのでもつ鍋だ。

それは大変だったわねえ、と珠希は染み染み言いながら私のお猪口に熱燗を注ぐいでくれた。

「で、どうしてそんなになちゃったわけ?」友里絵が整った眉を寄せて尋ねる。

私は聡が突然部屋にやってきたところから事情聴取を受けた一連の騒動を掻い摘んで話した。

この二人に話したところで差したる影響を及ぼすとは考えにくい。

「そら見たことか」と言われるかと思ったが、友里恵も珠希も強張った表情を浮かべている。

「それで、薫は大丈夫だったの?」青ざめた顔をして珠希が尋ねる。

「うん、なんとか。イケメンの刑事さんが助けてくれた。おとり調査?だかなんだか知らないけど、私に前から付き纏ってて顔見知りだったの。その時から私が物騒な事について、というか聡自身について何も知らされてないって分かってたみたいだし」

私は自嘲気味に笑って、お猪口の日本酒を一気に飲み干す。

「…しかし、聡は想像を遥に超えた最悪な男だったね。早く捕まればいいのに」

友里絵は苦々しい表情を浮かべ、親指の爪を噛む。

「うん、そうだね」同意したものの、思ったより声に力が入らなかった。
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