ジキルとハイドな彼
コウの運転する車は某外資系のホテルに入って行き、車寄せで停車した。

ホテルのロビーはガラス張りになっており、開放的な雰囲気である。

赤を基調とした華やかな内装に、アジアンテイストの調度品が飾られアクセントになっている。

まさにラグジュアリーな空間。

そんな中、コウと並んで歩いていると、すれ違う女性はチラリと視線を向けるのでちょっといい気分だ。

こっちに来て、と言ってコウはラウンジのソファーに私を座らせると自らも隣に腰を下ろす。

ポケットをゴソゴソと探ると紺色のビロードに包まれた細長い箱を取り出して私に差し出した。

「開けて見て」

言われた通りに蓋をスライドさせながら開く。

中に入っていたのは、見覚えのあるダイヤのネックレスだった。

「これって…貴方が私から毟り取ったネックレス?」

私は嫌そうに眉根を寄せた。

「毟り取ったって。山賊じゃないんだから」コウは苦笑いを浮かべる。

「私の両腕を捻り上げたうえに、毟り取ったじゃない。山賊並みの扱いよ!」

「薫が飛び掛かってくるからだろ?一般的な成人女性はあんな凶暴な真似はしない」

あまり穏やかじゃない会話に隣に座っていた上品な老夫婦がチラリと訝しげな視線を向ける。

コウはバツが悪そうに、コホンと小さく咳払いした。

「だから、悪いと思って修理に出したんだよ」

「いらないわよ、そんな不吉な代物」私は鼻の頭に皺を寄せた。
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