ジキルとハイドな彼
「まーまー、そう言うなって。折角直したんだから。それに物に罪はないだろ?」

「まあ、そうだけど」私は不満気に唇を尖らせる。

「ほら、後ろ向いて」

コウに言われるがままくるりと背を向ける。

髪を右肩に流すと、コウがネックレスを着けてくれた。

「うん、綺麗だ」

胸元でさりげなく輝くダイヤを眺めてコウは満足そうににっこり微笑んだ。

「やっぱり、薫には本物が似合うね」

コウは鎖骨にかかった髪を長い指でさらりと後ろに梳く。

「あ、ありがと」

この甘々笑顔を見るのも久しぶりだったので、思わず顔が熱くなってしまった。

人間とは欲張りなもので、少し甘やかされるともっと独占したくなってしまうのだから困ったものだ。

「こんな所で何してるんだ」

突然、声を掛けられて、甘い雰囲気を打ち消される。

私達はビクリと身体を強張らせて声の方へ振り向いた。

ダークスーツに身を固めた一団が此方に向かって歩いてくる。

私達の直ぐ近くまで来ると、一番先頭の真ん中にいる背の高い男性がコウの前へ一歩踏み出した。

一目見て解るほど仕立ての良い黒のスーツに身を包み、シルバーのネクタイをカッチリ締めている。

年齢もコウよりも少し上のようだ。

髪は短く切り揃えられ、迫力のある正統派の美形だ。

「ご無沙汰しています」コウは親しげにニコリと微笑み掛ける。

「お前はまだチャラチャラと遊び歩いてるのか」

おっかない美形がすげ無く返すと、コウは人差し指を横に振る。

「遊びじゃありません。僕はいつだって本気ですから」

おっかない美形は、少し吊ったネコのようなアーモンドアイで隣で小さくなっている私をチラリと一瞥する。
< 148 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop