ジキルとハイドな彼
メインディッシュのお肉が運ばれて来た。

赤ワインのソースがかかっておりナイフがスッと入るほど柔らかい。

一口食べると、言うまでもなく美味しい。

「それで、事件の方は何か進展があったの?」

うーん、と曖昧に返事をしながらコウはコクリと赤ワインを飲む。

「隠してないで教えなさいよ」

私は容疑者を問い詰める刑事さながら鋭い視線を向ける。

「折角美味しいものを食べてるのに仕事の話?」

無粋だ、と呟いてコウは嫌そうに眉根を寄せる。

「私は被害者よ!知る権利がある!」私はお行儀悪くナイフをコウに向ける。

コウは諦めたように肩で息を付きフォークとナイフをお皿に置く。

「薫はOAEていうグループを知っている?」

「何それ?新しい韓流のグループかなんか?」

私が眉根を寄せて尋ねると、コウは苦笑いを浮かべた。

「odds and ends」

コウが美しい発音で告げるが私はキョトンとして首を傾げる。

「ガラクタ、とか半端者って意味がある」

コウは口を湿らすようにワインに口付ける。

「暴走族のOBなどが集まって結成されたグループだ。暴力行為や脅しや強請り、売春や薬に詐欺といった裏稼業は何でもありの節操なしな犯罪組織だ。まあ、アメリカで言うところのギャングみたいなもんだんね」

物騒な話しに、私はゴクリと生唾を飲み込む。

「明確な組織や活動拠点を持たないという点で、既存の暴力団より取り締まりが難しい。表稼業は飲食や不動産業などの合法ビジネスで稼いでいる者も少なくない。新たな社会的脅威となって警察も手を焼いてるんだな」

まるで他人事のような呑気な口ぶりだ。
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