ジキルとハイドな彼
そんな凶悪なグループなんて善良な市民の私が知る由もない。

「薫を襲った犯人はOAEのメンバーだと見ている」

「どうしてそれが解ったの?」

コウは人差し指で自分のうなじを指す。

「OAEのメンバーになると、その証として身体の一部にシンボルマークである黒蜥蜴のタトゥーを彫る。奴隷の焼印みたいなもんだな」

「そのシンボルマークと私が描いたタトゥーの絵が一緒だったって事?」

「薫の書いた絵は下手過ぎて物証にならなかったから、証言だけ参考にさせてもらったよ」

コウは物腰柔らかにさらりと失礼な事を言ってのける。

「解ったことは、何らかの目的があって君はOAEに狙われた、って事だ。何か心当たりは?」

私は強張った表情で無言のまま首を横に振る。

目出し帽を被った不気味な犯人の顔がフラッシュバックし、全身が粟立つ。

だよね、と言ってコウはテーブルの上に肘を置き手を組んだ。

「だから1人での外出は控えて。特に夜」

尾花だけでなく、コウにまで念を押されるとは。

危機的な状況が否が応にも意識され「解った」とだけ消え入りそうな声で呟いた。


恐ろしい話を聞いてしまったもんだから、私のテンションはだだ下がりだ。

運ばれてきたデザートを浮かない顔をしてチビチビつまむ。

「だから嫌だったんだ」

コウは盛大に溜息を着いた。

「事件の話をしたら楽しいはずの食事がまるでお通夜じゃないか」

不機嫌なのを隠そうともしないコウをキッと睨みつける。
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