ジキルとハイドな彼
「どうだろうね。薫は緊張感が足りないから」

コウはいきなり無礼をかましてくる。

「じゃあ、私が会社にも行けなくなるほど、常にビクビク怯えてた方がいいってこと?」

「ヘラヘラ能天気にしてるよりかはいいんじゃないか?」

コウはツンと澄ました顔で言う。

さっきまでは優しかったのに何だか急に性格が悪くなった。

その豹変ぶりに私は唖然とする。やっぱりコウは二重人格なのかもしれない。

「何よ。意地悪ね」

それ以上、お互い口を聞くこともなく黙々とデザートを口に運んだ。


会計を済ませ気まずい雰囲気のまま店を後にする。

速足でグングンとロビーに向かうコウの背中を、パタパタと小走りで追いかける。

「あの…ご馳走様でした」

全てコウが支払ってくれたので、このまま知らないフリも出来ずペコリと頭を下げる。

「いいよ、別に」

「よかったら、ラウンジで一杯飲んでいかない?次は私がご馳走するから。どうせ車は代行呼ぶでしょ」

コウは依然として不機嫌のようだ。なんとかご機嫌とろうと試みる。

「お酒はもういい。眠いし」

「じゃあ、テラスを少し散歩していかない?緑が綺麗じゃない」

「暗いし寒い」

…しかし、呆気なく撃沈。

「せっかくこんな素敵なホテルに来たのに、このまま帰るなんて勿体ないじゃない」

私は唇を尖らせて独り言ちる。

それに折角コウと久しぶりに会って一緒に食事に来たのに、こんな険悪なムードのまま帰るなんて。
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