ジキルとハイドな彼
『薫さんもいるんでしょう。葛城さんの女性遍歴をここで暴露しちゃおうかなー』

そこまで小鳥遊が話すと慌ててコウが身体を起こす。

『葛城さんの初体験は、思春期真っ盛りの…』

電話に駆け寄り間一髪?のところでコウは受話器をとった。

「こんな遅くに何の用?」必死だったのが嘘のように取り澄ました口調だ。

「ああ、今ちょっと取り込み中だったから」着衣が乱れた私をちらりと一瞥する。

まあ、そんなとこ、と言った後に二言目三言話してコウは受話器を置く。

明らかに不機嫌な様子だ。

私の隣にドサリと腰を下ろして忌々しそうに舌打ちをした。

「何かあった?」

「呼び出しだってさー」コウは嫌そうに眉根を寄せる。

ちょっとガッカリしたような、それでいてホッとしたような気分だ。

「そう、大変だね」私はさりげなくはだけた服を元通りに整える。

コウの視線が私を捉えて思わずどきりとした。

しかし、目を瞑り視線を背けるとコウは髪をくしゃりとかきあげた。

「続きはまたのお楽しみ、か」コウは力なく微笑みソファーから立ち上がる。

私がぼうっと惚けている間にコウは寝室に行き素早く身支度を整えて戻ってきた。

私は玄関までお見送りをしに後を追う。

「じゃあ、行ってくるよ」

不意にスーツの袖口を掴み私は引き留める。

「あ、あの早く帰ってきてね。なるべく」

私が上目でチラリと様子を伺うと、コウは嬉しそうに微笑み額にキスをする。

「すぐ戻る」

コロンの香りが鼻腔をくすぐり、思わずかじりつきたくなるがグッと堪えて、しおらしくこっくり頷いた。
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