ジキルとハイドな彼
コウが仕事に行き一人部屋に取り残される。

リビングに戻り、ソファーに腰掛けるとさっきの情景が頭の中にフラッシュバックする。

「ぎゃあ!」残像を振り払うように頭をブンブンと振る。

火照った頬を冷やそうと、冷蔵庫からミネラルウォーターをとりだしコップに注いだ。

一気に飲み干すとこめかみがキンと痛くなる。

どうしたものだろう。

コウを慰めようと思ったら、想定外に関係が発展してしまった。

コウも案外節操がない。

とは言うものの、男に騙された直後にまた他の男を受け入れようとした私も人の事を言える立場ではない。

『いいじゃない、楽しめば』

友里恵の台詞が頭を過る。

「楽しむ…ねえ」

こくりとミネラルウォーターを口に含む。

確かに一皿何万円もする高級懐石料理が無料で食べるチャンスがあるとする。

きっと人生でその料理を二度と口にする事は出来なくても、そのチャンスを逃す事はないだろう。

コウも同じ事ではないか。

例え自分の物にならなくても人生において味わうべく、極上の逸品だ。

「た、確かに楽しむべきかも」

ギュッと手のひらを握りしめる。

でも私は楽しみは楽しみと割り切れる器用なタイプかしら…

そこまで考え、うーむ、と首を傾げた。
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