ジキルとハイドな彼
2つの顔を持つ彼
「タイ?」

私は素っ頓狂な声をあげて聞き返す。

「うん、THAILAND」

聡は落ち着いた声のトーンで答える。

「チーク素材やバンブー家具を生産している工房を買収したんだ。それで現地の生産ラインや商品管理、人材育成などを調整するために、暫くむこうへ滞在するきとになる」

「し、暫くってどれくらい?」

動揺を隠そうと平静を装うが声が震えているのが自分でもわかる。

「わからない。半年で帰って来るかもしれないし、何年もかかるかもしれない」

「いつから行くの?」

「早ければ来月から」

急過ぎる展開に私はクラリと目眩がした。

そう…と消え入りそうなほど小さい声で相槌を打つ。

今日は二週間ぶりのデートだった。

聡は抜かりなく私の好きな赤ワインの種類が豊富に揃っているお洒落なスペイン料理屋さんを予約しておいてくれた。

「話しがある」と切り出されて悪い話しかよい話か判断しかねたが、少なからずプロポーズを期待をしてしまったことは否定出来ない。

やっぱり悪い話しだったか。

自嘲気味に笑いワインを一口飲む。

「…それで、どうするつもり?」

感情に任せて、仕事と私どっちが大事なの?!なんてお門違いな発言をしたところで、聡は間違いなく前者をとるだろう。

さすがに恋愛経験の乏しい私でもそれ位はわかる。

ここは一つ、相手の出方を観る事にする。

聡は眉間に皺を寄せて、考え込む。

嫌な間だ。面倒な事にならず、上手く別れられるよう言葉を選んでいるのだろうか。

「俺がタイに行けば、今みたいに会うのは難しいかもしれない…だから…」

だから?と聞き返し、次に来るであろう衝撃の台詞に備えて私は奥歯をぎゅっと噛みしめる。

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