ジキルとハイドな彼
「君もタイに来ないか?」

「え?」予想しない展開に一瞬日本語の意味がわからなくなる。

「向こうに行ったら、暫くは忙しくなるし、薫も仕事があるだろうから今直ぐに、とはいかないかもしれないけど、落ち着いたら君と一緒に向こうで暮らしたいと俺は思っている」

どうかな、と聡は些か緊張した面持ちで尋ねる。

その瞬間、私の頭の中で教会の鐘が鳴り響き、白い鳩が空を舞う。

「そ、それって、け、結婚?」

答えの代わりに濃紺のビロードで包まれた小さな箱が机の上に置かれる。

開いて見ると、眩しく輝くダイヤモンドの…ネックレスだった。

指輪じゃないの?

私は不思議そうに首を傾げる。

聡はその様を見てクスリと笑う。

「指輪にしようかとも思ったんだけど、ちょっと気が早いかと思って。ネックレスだったらずっと付けていられるから、結婚が決まったら指輪にしてもらおう」

「ありがとう…」

嬉し過ぎて、ありきたりな言葉しか思いつかなかった。

「着けてみせて」

聡は立ち上がって私の後ろに回り込む。そっとうなじにかかった髪を持ち上げるとぎこちない手つきでネックレスを付けてくれた。

「よく似合ってる」聡が嬉しそうに微笑んだので私もにっこり微笑み返す。

「離れていても、ずっと繋がっている。このネックレスはその証だから。ずっと着けていてね」

それから、と言って聡はポケットから鍵を取りだした。
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