ジキルとハイドな彼
黒い銃口がこちらに向けられている。

「悪いな、薫」

聡は笑いながら肩をすくめて私に拳銃を突きつけた。

「勇敢にも俺を助けに来てくれた君を殺さなくてはいけないのは本当に心苦しい限りだ。しかし組織を護るためには、薫に全ての罪を被って死んでもらうしか、ない」

事態は急展開し、あまりのショックに目眩がする。

腰が抜けそうになったが脚を地面に踏ん張った。

「組織を護るって…一体どうゆうことなの?」

「OAEは俺が作った組織だ」

OAE

規律は存在せず、強盗、恐喝、詐欺に麻薬の密売、犯罪は何でもありの凶悪犯罪組織…

元暴走族が暴力団の後ろ盾を得て作った組織だと以前コウから話を聞いた。

そのトップが聡だったというのか。

「じゃあ、拉致されていたっていうのも…」

「薫に鍵とネックレスを持ってこさせるために一芝居うった」

聡はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

「どこまで最低な人間なのよ」怒りと恐怖で顔から血の気が引いていき、声が震える。

こんな男を救おうとした自分の馬鹿さ加減に吐き気がした。

「今回の件はお前が警察へ密告するために単独で実行したことだと黒龍会には話してある。粛清したと報告すれば俺は罪を免れるって訳だ」

「私に全ての罪を負わせたうえで殺す、ってこと」

「その通り」

聡の口調は怖いくらい抑揚がなく眼には感情が宿っていない。

死んだような眼ってこうゆう事を言うのだろう。

聡は銃を突きつけて私を屋上の柵の側まで移動させる。
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