ジキルとハイドな彼
警視庁刑事部

「お前、何を考えてる?」

上席である尾花に経過報告書を提出すると早速プライベートオフィスへ呼び出される。

「何か不備でもありましたか?」俺はシレっと聞き返した。

「俺は、沖本薫の身辺調査をして仲卸と接触した現場を抑えろ、と指示したはずだぞ?」

メタルフレームの奥の冷たい瞳がギラリと光る。

「はい、それは承知しています」

「お前が沖本薫と接触しろ、とは言ってない。一言もな」

ああ、やっぱりダメだったか。

そりゃそうだよな。

わざわざ俺がそこまでする必要はないもんな。

と、思いつつも何とか説得力がある風の言い訳をしてみる。

「沖本薫をここ数日間様子を見ていましたが、不審な点はありませんでした。これ以上無駄な時間を費やしたくないので直接コンタクトを取り、富永との現状を探るため話しを聞いたまでです」

尾花は目を細めて不機嫌そうに俺を見据えた。

「警察が接触していると富永に気づかれたら、今までの調査は全て無駄になる。お前はその責任が取れるのか?」

暗に、俺は責任取らないぞ、と言いたいらしい。

「失敗した時は、自分が全て責任を取るつもりです」

尾花はそれを聞いて鼻白んだ顔をする。

「それならいい。今言った事を忘れるなよ」

所詮、自分の保身って事か。

俺は一礼してオフィスを後にする。
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