ジキルとハイドな彼
「何それ、胡散臭…」

高校時代からの悪友である本条友里恵(ほんじょうゆりえ)が眉間にシワを寄せて赤ワインを一口含む。

「そんな事ないよねぇ、珠希!」

同意を求めると、「薫、まさかお金とか渡してないよね」と言って、榎本珠希(えのもとたまき) はちっちゃな顔を曇らせる。

「お金なんか渡してないよ!結婚詐欺なんかじゃないってば」

私が鼻の頭にシワを寄せる。

お金を渡してないならいいんだけど、と言って珠希は琥珀色のシャンパンをこくりと一口飲む。

私のマンションからほど近いスペインバルに友里恵と同じく高校からの同級生である珠希と三人で集合して女子会を開催している。

女子会、と言えば聞こえはよいが、週末なのに暇なアラサー女が集まって近況報告や愚痴を肴に酒を呑む、というどちらかと言えば、生産性のない惰性なあつまりである。

地元はそれぞれ東京都近郊に位置する埼玉県の春日部市だが、3人とも実家を離れて1人暮らしをしている。

同じ私鉄の沿線に住んでいるので、ちょくちょくこうして集まって飲むようになった。

「それでプロポーズのあとにもらったの」

私は長い髪をかき揚げ、胸元のダイヤモンドをアピールする。

「ダイヤ?!」目を見開いて二人は胸元のダイヤに注目する。

「とか言ってタンザナイトだったりするんじゃないの?」友里恵は唇の端をあげて冷やすように笑うと「友里恵は意地悪ねえ」と言って珠希は苦笑いを浮かべる。

「珠希は聡に実際会ったことないからそんな事言えるのよ。言葉では言い表せないけど、何処となくインチキくさいんだから」

なんなく解るかも、といって珠希は眉根を寄せ友里恵に同意する。
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