ジキルとハイドな彼
「珠季は聡に会ったことないじゃない」すかさず私は異議申し立てる。

「私が言っているのは、聡さんの事じゃなくて、そのインチキ臭いっていう感覚がわかる様な気がするのよ」

「どうゆうこと?」私は訝しげな視線を珠希に向ける。

「うちの店にもいるのよ、そうゆうお客さんが」珠希の黒目がちな瞳が輝いた。

珠希は現在、自由が丘にあるgraniteというカフェで雇われ店長として働いている。

「その人はいっつも趣味の悪いスーツを着てここのとこ毎日朝夕決まった時間に店に来るの。歳の頃は20代半ばくらいで、やたら愛想はいいんだけど、明らかにうちの店を好んで来るタイプじゃないのよ」

確かにgraniteの店内はアンティークの家具で統一されており、どちらかと言えば女性が好む内装だ。

私自身、何度かお店に足を運んだが、男性は女性の連れか、ファミリーが大半で、1人で来ている人はあまり見かけた事はない。

「珠希に気があるんじゃない?」友里恵がニヤリと笑う。

確かに珠希はパッチリとした黒目がちな瞳が印象的な正統派美人である。

小柄で華奢な体型をしており、カフェの店員らしくお洒落だ。

お客さんから言い寄られたことは過去に何度もあるらしい。

「いや、私には全く異性としてアプローチしてくることはないのよ。興味がないのは確かだわ。寧ろバイトの女子大生がお気に入りでしょっちゅう声を掛けているんだけど、プラベートに踏み入る気はなさそうなの」

「じゃあ、何のために毎日来ているの?」友里恵が尋ねると「それがわからないのよ」と言って珠希は眉根を寄せる。

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