ジキルとハイドな彼
「だから聡はインチキ臭くなんかないって」

「わ、私も薫の彼みたいなインチキ臭い男に興味なんてないもん」

「珠希!否定した側からインチキ臭いって言わないで!私プロポーズされたんだよ?!なのに、この雰囲気はなに?!もっとシャンパンとか頼んでお祝いしてくれるトコじゃん!」

私は興奮して大きく肩で息をつく。いい歳した女がわめき散らしたもんだから、周囲の視線が痛い。

ああ…この店には当分来られないだろう…。

「薫、私は心配なんだよ」友里恵は諭すような口調になる。

「あなた富永さんの何を知っているの?」

「何って?」私は口籠る。

「出身地は?ご両親は紹介してもらった?」

「出身地は兵庫県だって。ご両親そちらにいるけど、遠いからなかなか会いに行けないみたい」

「じゃあ、自宅には行ったことある?会社には?どんなトコに勤めてるか知ってるの?」

友里恵は質問を続ける。

「幡ヶ谷に事務所があるって…」

「会社の人とか友人に紹介された事ある?」

私は無言で首を振る。

「それに未だに、お泊りする関係じゃないんでしょー」

「一線を越えてるかどうかは関係ないじゃない!」

気にしていることを友里恵が図星を突いたもんだから、私はつい声を張った。

周囲の視線が再び集まり、私は顔を赤くする。

当分じゃなくて二度とこの店には来られないかもしれない…。
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