ジキルとハイドな彼
女子会を早めに切り上げて、重い足取りで我が家に向かうべく、鳥の杜商店街を歩く。

今日は私の婚約祝いを兼ねたつもりだったが、祝ってもらうどころか、めちゃくちゃ心配させてしまった。

確かに友里恵の言う事は一理ある。

あそこまでムキになっていたのは、裕子と孝の一件があって焦りがあったことは否定出来ない。

私は周りが見えず暴走していたのだ。

トボトボ歩いていると、不意に一台の車が横に止まった。

夜道で人気がなかったため警戒して振り向く。

助手席のパワーウィンドウがゆっくりと開いた。

「こんばんは」

中からエラくいい男が顔を覗かせる。夜でも光輝くようだ。

「コウ!」

「相変わらず浮かない顔してるね」おかしそうにコウが笑う。

今日は上質なスーツをバシっと着こなし、前髪を上げて形のよい額を出している。

この間とはまた違う雰囲気だ。

しかし、溜息が出るほど素敵、という点においては変わりない。

「今帰り?」と聞かれて、こっくりと頷く。

「よかったら、乗って行かない?」運転席には同じくスーツを来た若い男が乗っている。

暗闇でよく見えないが、茶色っぽいセルフレームの眼鏡を掛けた好青年風だ。

サラリーマンではないので同僚とは考え辛い。

ご友人かしら?

「大丈夫、家は直ぐそこだから。ありがとう」

じゃあ、と言って踵を返し夜道を歩きはじめると、後ろで車のドアを閉める音が聞こえた。

振り向くとコウが車を降りて追いかけて来ている。
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