ジキルとハイドな彼
「薫!夜道の1人歩きは危険だから乗って行きなよ」

「だから大丈夫だって。もういい歳だから痴漢にもあわないでしょ」

「暗闇だったらわからないじゃないか」

心配してくれてるんだろうけど、なんかちょっと微妙…。

「胸騒ぎがするんだ。この後薫に何かあったら、ああ、俺は一生後悔する事になる。だから、お願い。
ね?」

コウはそっと私の手を握る。

状況がよくわからないが、とにかく私を送りたいらしい。

「大袈裟ね。わかったわ。お願いしてもいいかしら」

それを聞いてコウは安心したようににっこり微笑む。

私が後部座席に乗ると、そのままコウも隣に乗り込んだ。

「商店街に向かって」コウが指示すると、ハイ、と好青年が応答し、車を発信させた。

尊大な態度だな、と一瞬思ったけど、何だか堂に行っている。

「何処か行ってたの?」

「仕事だよ。今日は金曜日じゃないか」

コウは何故そんな事を聞かれたのか不思議そうに首を傾げる。

「仕事って翻訳の?今日はスーツなのね」

「ああ、そう。ちょっと打合せがあってね。彼は僕の後輩で仕事を手伝ってくれているんだ」

「そうなんだ」どうやら友人ではなかったようだ。

言われてみれば、コウよりも若そうだ。

「薫はなにしてたの?デート?」

「女子会だよー残念ながら」痛い所をつかれ、シュンと肩をすぼめる。

「なんだか元気がなかったみたいだね?」と言って私の顔を覗き込む。

「何かあったの?」

コウの目に見つめられると見透かされているような気がして何も誤魔化す言葉が思い浮かばず口籠る。
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