ジキルとハイドな彼
「よかったら店に寄ってお茶でもどう?」柔らかくコウは微笑む。

「うーん、せっかくだけど、遅いから辞めておくわ。話しだしたら、長くなりそうだし」

「まだ9時じゃない。宵の口でしょ。明日休みだし」

コウは食い下がってくる。

そんなに私の恋愛話が聞きたいのだろうか。物好きな男だ。

せっかくだけど今日はずっとガールズトークをして来たので、コウには悪いがその手の話はお腹いっぱいだ。

「でも今週は色々な事があって疲れちゃったから」

「そういえば知り合いからもらったバローロがあったな」

好きなワインの銘柄だ。

「行く」私は即答した。

じゃあ、決まり、と言って頭をくしゃっと撫でる。

その時、運転席の男が突然吹き出した。

バックミラー越に目が合う。

「おい、小鳥遊(たかなし)…」

コウが低い声で好青年改め、小鳥遊を咎める。

「す、すみませ…ぶっ…」

再び小鳥遊は堪えきれずに再び吹き出した。

コウは舌打ちをすると、運転席に身を乗り出し、小鳥遊の耳元で何やらボソボソと囁いている。

小鳥遊は、すみません、と小声で呟いた。
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